あのときの友達は今どうしてるんだろう。二度と会うことのない友達。
自分は子供のときスイミングに通っていた。たぶん4歳ぐらいからだったかな。親が行かせたかったらしい。
ただね1番最初は本当に行くのが嫌だった。もうね顔を水につけることが恐怖だった。あれ最初みんな怖くないのかな?一番下の階級からスタートしたけどみんな普通に泳いでるんだもんすごいよ。
だから駄々こねていかなかったときもあったし、親に頼んで先生に最初の15分だけやって60分休憩とかもさせてもらった記憶がうっすらとある。それでも親はずっと上の階から見ててくれてた。
帰りに自販機でセブンティーンアイスを買うのが楽しみでもあった。
けどね慣れてくると面白かった。最初の恐怖心に勝ってしまえばすごいおもしろい。60分見学をその日も先生に頼んでたときは
「うへ店長くん見学してていいよー」
とか言われるけど見学お願いしたのにやっぱやりたいとも言い出せなかった。そこで普段話したことないちょっと年上の女の子が
「今日も見学?やろうよ」
と言われて背中を押された僕は先生にやることを言いに行った。その日はその女の子が優しくてスイミングがますますおもしろくなった。
母親にも
「あの女の子と仲いいね」
って言われ冷やかされた気分で小っ恥ずかしかった。
ただ、数週間経った頃にその女の子はやめていた。
学校も学年もやめた理由も知らない女の子。突然の日だった。
しばらく経つと吹っ切れて、それから僕は初級のペンギンクラスを合格しラッコクラスに上がった。ラッコクラスでは背伸びを教えていた。そのときに仲良くなったのはすごい乱暴な子ですぐ叩いてくる子だった。
けど行動が奇抜で面白かったし叩くの以外は好きだった。あまりにも叩くもんだから、相手の付き添いのおばあちゃんに謝られたよ。
別に僕はそこまで気にしてなかったんだけど。すいませんねぇ~って感じで
この子も突然辞めた。1週、2週休んでも病欠とかかなって思ったけどさすがに1ヶ月こないとやめたのかなって感じる。
辞めるとき一言あってもいいじゃん、と当時の自分は思っていただろう。
ラッコクラスが終わって次はトビウオクラス。ここではクロールの練習。ここらへんで知り合った男の子は数年続く1番長い付き合いになった。
ちょっと小太りの1歳年上の男の子は森三中の大島さんに似てて笑うと目が細まる。優しくていつも練習が終わると自由時間にプールでキャッチボールしてた。スイミング通ってて1番仲良くなった友達だ。喧嘩をすることもなかった。
それでもスイミングスクールの外で遊ぶことはなかった。それぞれお互い別々の学校で生活し、土曜日の3時半になったらここに集まる。そこで遊び終わったらまた来週の土曜日に集合。
それぞれ別々の空間だと思って楽しんでいた。
その間にもトビウオクラスからカエルクラス、イルカクラスへと一緒にあがっていった。イルカクラスはそのスイミングでは1番レベルが高いクラスだ。僕は5年生だった。
そんなときにある女子が自分にちょっかいをかけてきた。授業が終わって自由時間になると僕のゴーグルを頭からとっていくのだ。
取り返そうとすると、女子のグループ間で投げながら僕が取るのを楽しむって構図。
周りからみたらいじめのようみえるが1人の女の子が僕に好意を抱いていたからこその行動であったのが自分でも感じ取れた。
そうやって取ったゴーグルはなかなか返してくれない。自分でもそのときは楽しんで本気で取り返そうとしていなかったのかもしれない。
そういったことが1回始まってからは毎週のようにやられていた。毎週あるとだんだん自分もめんどくさくって取り返しにいかないこともよくあり、ほかのゴーグルあるしいいやぐらいにしか思っていなかった。
そうやって女の子の手に渡ったゴーグルは今でも返ってきていないものもある。
それにキャッチボールを毎回してくれた大島君にも申し訳なかった。僕がゴーグルを取り返している間一人だったのだ。
ある日僕は骨折した。氷が道路に張りつめるほどの寒さ。その上で友達に転ばされて打ち所が悪く足の骨を折ってしまった。
救急車に運ばれるとき新品のジーパンを履いており、足の状態を見るために救急隊員にズボンを切られた。
親があのズボンもったいなかったねって言っていたのを覚えている。
それより僕の足を心配してほしいものだ。
その転ばした友達は罪悪感をもっていたが自分はまったく友達に怒りを感じていなかった。逆に罪悪感を持つ友達に申し訳なくなってしまうほど、なんとも思っていなかった。
そこでギプス生活1ヶ月、安静のために2ヶ月、計3ヶ月運動しなかった。そのときは骨折で頭いっぱいだったしスイミングのことなんか考えてもいなかった。
3ヶ月後。ひさびさにスイミングにいくと大島君はいなくなっていた。最初あれ?今日はこないのかなと思っていたが翌週もそのまた翌週もこなくてようやく悟った。
そのときは女子も僕にちょっかいをかけることもなくなったし、ずっと一緒にいた友達もいなくなりずっとやってきたスイミングがすごくつまらないものに感じた。
そのときは5年生だったのでスイミングをやめるにはちょうどいい時期だった。中学までいってやってる人は少なかったのだ。
親も反対せずやめさせてくれた。
自分がもし骨折したときにプールに行って大島君に話してたら大島君はまだつづけていたのだろうか。けどスイミングのことなんてスイミングスクールに行ったときしか考えなかったしそんな行動しようともしなかっただろう。
それでもとたまに考える。
小学生のときの友人で1番今どうしてるんだろうと気になる人はその友達だからだ。
小学校の友達は同窓会でもあれば会える可能性もある。なんだったら会いにもいける。それに道端でばったり会えば小学生のときの顔といえど、6年間毎日のように合わせてきた顔だからどこかしら面影があることに気付くだろう。
しかしその友達は住所も学校も知らない。森三中の大島さんに似てるといえども小学校のときの同級生より顔の記憶があいまいだ。街中で会っても気づかないだろう。
そんな思いがあるからこそ1番今どうしてるか知りたい相手なのかもしれない。
僕が急にスイミングをやめたと思っているかもしれない。
女の子がうるさくなってやめたと思っているかもしれない。
辞めるときなんで一言声をかけてくれなかったんだと思っているかもしれない。
もしかしたらもう僕のことなんて忘れているかもしれない。
あのときの誤解を解くことはもうできない。
その友達とは2度と会うことはない。